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スポーツを変える青い力!
アスリートを応援するベンチー企業、株式会社ブルータグ 代表取締役社長 今矢賢一 さんにお話を伺いました。
株式会社ブルータグ 代表取締役社長今矢 賢一
構 成 :Lica
文 :斉藤未希
Movie:Shingo
今矢さんのブルータグ起業のきっかけは?
生まれは大阪で、14 歳で家族でオーストラリアに移住し、8年間住んでいました。大学でスポーツマーケティングの勉強をしながら、自分もスポーツが好きでサッカーをやっていました。
1999年に日本に戻ってきたんですが、戻ったきっかけは、シドニーで務めていたイギリスの会社が世界各国でビジネスセミナーとかカンファレンスを企画運営をする会社で、たまたま東京にも支社があって、「オマエ日本語できるから行く?」と言われたのがきっかけです。
ちょうどその頃日本ではネットベンチャーが立ち上がっていた時期だったんですね。大きな産業革命が始まった時に自分も挑戦したいと思って、2000 年3 月に起業しました。2年ほど自分で経営して、その後バリューコマースに売却、そこに5年ほど勤めました。2006 年に株式上場した後、2007 年に退職し、現在に至ります。
そこでインターネットの勢いを経験して、一方でスポーツがすごく好きだから、オリンピックとか日韓のワールドカップとかを観ていたんです。ブルータグの起業のきっかけは、2004 年のアテネオリンピックの時に、オリンピックの代表選手でさえ、自費で渡航しているという事実を知って、オーストラリアで勉強している時に、日本のスポーツマーケティングや文化がすごく遅れているなというのは感じていましたが、自分がそこで何かをやろうという気持ちはなかったんですね。これだけの経済大国にもかかわらず、オリンピック選手全員のサポートができていないという現状を知ってすごく「マズイな」「これは変えていかなくてはいけないな」と思ったのがきっかけです。
それで「なぜオリンピアンが自腹で遠征しなくてはならないのか?」を色々調べ始めました。まず環境が整っていない、十分な活動資金が得られていない。
そこで、本気で挑戦しているアスリートを支援できるビジネスを創りたいなと思ったんです。オーストラリアでスポーツを通じて育ててもらったこととインターネットの業界でビ ジネスの経験をさせてもらったことをうまく融合させて、自分のライフワークとしてできるんじゃないかと思いました。で、2007 年の4月からスタートしました。
事業内容は具体的にどのようなことをしているのですか?
アスリート支援とスポーツ振興をやりたいというのが起業の原点です。具体的には、一般消費者に向けてのビジネスと、対企業に向けてのビジネスの2つです。一般消費者に向けては、Eコマースのビジネスです。購入していただいた金額の5%がアスリートの支援になるという、「個人の消費を通じて支援をする」システムです。
僕らがサポートしているアスリートは、残念ながら日本ではまだマイナーな競技であったりプロリーグがありません。そういった競技に対しては、現実に企業のスポンサーを付け るのは大変です。仮にそれが100 万円の協賛金だったとしても、マイナーな競技である以上、企業にとっては経済合理性がないわけですから。でも、一社から100 万円じゃなくて 2,000 人から500 円ずつ集めても同じ100 万円になります。「小さくたくさん集める」ことが、インターネットの社会インフラができたことによって、より可能に、現実的になって きたわけです。個人が気軽に支援できる活動を広げて行きたいと思ってEコマースというビジネスをやっています。
対企業については、ブルータグアスリートは色々なジャンルの選手が100 名近くいるので、そういった選手を使って商品のプロモーションをしたり、商品の企画開発、アドバイス をしたりといった、アスリートができることを提案しています。また、そのアスリートが、オリンピックが近々に迫っているようであれば、そのスポンサリングを営業させていた だくこともあります。具体的に、多くのスポーツアパレルに採用されている、ファスナーの世界のトップブランドであるYKKの場合は、商品開発過程でブルータグアスリートが 一ヶ月くらい使い倒す。壊れてもいいし、洗ってもいいし、とにかく徹底的に使う。そのフィードバックを返すことによって、生の声を商品開発に生かすことができるんです。
このようなことをコーディネイトすることによって、アスリートはモニターとして協力でき、かつ多分一人だったらできないかもしれない仕事ができ、YKKは生きた情報が集まる。 我々はそうしたつながりを通したビジネスをさせてもらっています。
あえてマイナーな競技を支援するのは?
その競技がマイナーなのは、たまたま日本でそうなだけであって、世界的には違うものもたくさんあります。例えば野球は、日本ではメジャーですが、世界的にはそうでもない。かたや世界で最も競技人口が多いサッカーは、J リーグが出来る前は、どちらかと言えばマイナーな競技でした。
アスリートたちは、現状はパイオニアとしてやっているかもしれませんが、彼らに共通していることは、本気で世界一を目指してチャレンジしています。そんな彼らが、挑戦する意思はあるのに切符を与えられていないというのが現状です。彼らに挑戦する切符を与えられるだけの環境と経済力がこの国にはあるのにできていないんです。
我々は、そこが少しでも前に進むように支援して行きたいと思っています。もしかしたらその競技は、5年10 年後にはメジャーになっているかもしれませんから。
社会貢献性が高い活動かと思うのですが。あえて株式会社でスタートした理由は?
企業として納税するのも、雇用を創出するのも立派な社会貢献ですよね。投資家の方に「今矢さん、これ、NPOでやった方がいいんじゃない?」言われたことがあります。自分として大切に考えているのは、営利企業として確立させることです。アスリートも高い目標を掲げ、クライアントも収益を上げようとがんばっているのに、僕らがのほほんとNPOとしてやっているのはいかがなものかと。利益を追求する中でこそ、支援は継続できると思っています。
スポーツは実際経済効果があります。前回のWBC の時も、打てなかったイチローが最後の最後で打って二連覇した時、みんな「乾杯!」って飲んだビールが全国で何十万杯あったと思うんですよ。 1杯500 円としてもそれなりの経済効果がありました。正確には560 億円くらいの経済効果があったと言われています。それだけスポーツの波及効果は大きいんです。
マイナー競技の中で、注目している競技はありますか?
去年ロンドンパラリンピックで、車いすマラソンの 洞ノ上浩太選手に帯同する機会がありました。今年東京マラソンがワールドメジャーに昇格しましたが、車いすマラソンはすごく可能性があると思います。まず日本がすごく強い。女子の世界記録保持者(土田和歌子選手)もそうですし、男子にも強い選手がたくさんいます。
日本でもロードバイクが流行っていますが、自転車の要素もあるんです。フルマラソンの距離を平均時速30kmくらいで駆け抜ける。アフリカのマラソン勢が2時間3~4分で走るところを1時間半くらいで走ってしまうんです。すごくスピード感もあるし、駆け引きもあるし、かつ世界各国のワールドメジャーの大会でも「車いすの部」があるんです。これはもっともっと注目されるだろうし、メディアで中継しても迫力あるレースだと思います。マラソンだけでなく、バスケットボールも迫力もあるしめちゃくちゃ面白いですよ!
なかなか見る機会がないですよね?
セパタクローの選手たちも、競技普及のために色々知恵を絞ってやっています。例えば渋谷のクラブを借りきって、後ろにDJを置いてトーナメント制のイベントを過去10 回くらいやっています。競技者はパイオニアとして、競技の裾野を広げるための様々な努力をしているし、そういう選手たちがいる競技というのは、今後メジャーになる可能性を秘めていると思います。
スポーツの美しさ、かっこ良さはどこにあると思いますか?
みんなは、アスリートたちがこれまで積み上げてきたものの結果を、たまたま試合というシーンで見ているわけですよね。自分は支援をしている立場で最高の舞台に立つ前の「過 程」を見てきています。
だから結果はもちろんプロセスの部分に美しさやかっこ良さを感じます。例えばメジャーなスポーツだと、まず実力がなければ入れないが、プロになれば それなりの環境が与えられています。トレーナーやマネージャーがいたりとか、道具も提供されるし、当然給料ももらえますし。ファンもたくさんいるしTVで放映もされるから、プロとして当然結果を出さなくてはなりません。そういうプレッシャーの中で彼らも努力しています。僕らがサポートしている選手たちは、まずオリンピックやパラリンピックに出る前に、国としての出場権を取らなくてはいけないとか、ワールドカップに行きたくても、まず遠征費を稼がなくてはならないし、行ったら行ったで自分で車を手配しなくてはならない、身体のメンテナンスも自分でやらなくてはならないとか、結果を出すまでのプロセスにおいて、本当に様々な努力をしています。例えばフリスビーを使ったアメリカンフットボールとバスケットボールが融合したようなアルティメットという競技は、ワールドカップが去年日本で開催されて、女子は世界一になった。そんな彼女たちでさえナショナルジャージを自腹で買っているんです。そんな環境の中でも、使命を持って努力をしているプロセスに一番かっこ良さを感じますね。
今矢さんもご自身でスポーツをされていますか?
ずっとサッカーをやっていましたが、20 代前半で「ここでは食えないな」と思って諦めました。4 つ下の弟は実力があり、努力もし たからプロになりましたが。とうとう去年世田谷区のシニアリーグで復活、世田谷の一部リーグで優勝したんです!
年月経って「またやろう!」と思ったきっかけは?
スポーツに近い所でビジネスをしている僕でさえ、環境って大切だと思います。
たまたま一緒に仕事をしている3つくらい年上の仲間がずっとやめずにサッカーを続けていて、彼から誘われたのがきっかけです。やりたかったけど、どこかで一歩踏み出せなかったんですが、背中を押してもらえました。自分からチャレンジしたいと思っているのはトライアスロンです。自転車で通勤はしているし、東京マラソンも走ったので、バイクとランはタイムはさておき何とかなると思っています。
ネックはスイム。これは一からチャレンジします。今年の夏の大会には出ます。オリンピックディスタンスの半分ですが。それでも バイク20km、ラン5km、スイム750mです。
具体的にトレーニングは始めているんですか?
自分が持っているスポーツ業界のネットワークを駆使して(笑)。ちょうどお世話になっている取引先の方がスイマーなので、水泳コーチとして教わっています。ビート板でバタ足からやってます。
久しぶりに身体を動かして、何か実感していますか?
ブルータグを起業する前、ちょうど20 代後半から30 代前半までは、お酒も好きだし少しずつ太ってきたんですね。今、ちゃんと身体を動かすことによって、日々のコンディショニングはしやすくなりました。それに仕事柄9時5時ではないし、パソコンでの仕事がすごく多いので、すぐに肩が凝ったり首が痛くなったりします。 その時にちょっと走りに行ったり、自転車で帰る状況を作り出せているのはすごくバランスが取れているのではないかなと思います。
「スポーツっていいよね!」と思うのはどんなこと?
今、本気でスポーツをやっているアスリートを応援しているわけですが、そこには当然厳しさがあります。
どちらかと言うと、「スポーツのある社会」の方が好きで、例えば自転車通勤をするとか、ちょっと歩いたり走ったりとか、スポーツのある社会というのはすごく豊かだと思います。
日本はそんな印象を持たない気もしますが、自然がすごく豊かな国。仕事柄アウトドアにもよく行くんですが、汗を流して、何とも言えない「スポーツをしている」という、その場にいるだけで感じられる豊かさが当たり前であって欲しいと思っています。自分はオーストラリアに住んでいたから、その豊かさがスッと入ってくるんですが、日本はまだまだ求めに行かなくてはならないところがあります。それがなくなるといいなと思います。
海外によく行かれますが、スポーツと生活が密着していると感じたことはありますか?
日本はスポーツ文化という意味ではすごく遅れています。ロンドンパラリンピックの時もそうでしたが、街づくりからしてスポーツをする環境が整っているんです。例えば自転車レーンがあるのは中心部でも当たり前だし、そこで練習していても、普通の自転車通勤の人が、「Good luck !」と声をかけてきたり。そういう雰囲気は日本ではまだ味わえません。街全体がスポーツをやるのが文化として浸透しているんですね。
そういう環境を整えて行きたいという気持ちもあるんですよね?
情報を発信していく存在にならなくてはいけないなという気持ちはすごくあります。そのためにもトップアスリートを輩出することがすごく大切だと思っています。
日本だと、例えばJ リーグができたことによってサッカーの裾野が広がったり、メジャーリーグの野茂選手にしても、彼がいなかったら、今の大勢のメジャーリーガーはいなかった と思うんです。裾野が広がれば、エリートを目指す人と、そのスポーツを楽しむ人で良い循環が生まれてきます。そうなれば、自然とスポーツが社会や生活の中に当たり前のよう に浸透していくのではないかと思います。
ブルータグとして、今後の展開や、活動を通じて訴えていきたいことは?
本格的に展開を始めて5年たち、たくさんの失敗・試行錯誤を重ねてきました。
事業家として結果を残さなくてはいけないステージに来たなと思います。YKKさんをはじめとして、そうそうたる企業が「ブルータグと一緒にこういう活動をしよう」と声をかけていただけるようになりました。信頼していただいている企業と、取り組んでいる活動をしっかりと事業の軸にしていく、ということをやっています。
YKKさんと一緒に行なっているのは「フィールドサポートプロジェクト」。我々が支援しているアスリートはプロのチームではないので、サポートスタッフが常時帯同できる環境ではありません。競技や競技普及のためのイベントなどのフィールドでの活動をもっとバックアップできる体制を整えたかったのですが、今までの事業収益だけでは不可能でした。2012 年10 月から、ブルータグがもっと活動しやすくなるようにとYKKと共同でサポートカーを作って、月に2 回くらいの割合で全国各地ブルータグアスリートが出場するイベントや主催する大会でのサポートに出動しています。
最後に、自分が大切にしているものを円グラフで表現してください
『Family』血のつながっている家族はもちろん、サポートしているアスリート、その回りにいるサポーター、スポンサー企業も含めて、「スポーツで社会を豊かにしていこうよ!」という思いを込めて。
『what for』そもそも何のためにやっているの?ということをアスリートと話すようにしています。結果的には金メダルだったり世界一だったりということはあっても、それは通過点にしか過ぎません。自分も事業家として、それを通じて何をするんだ?という大きなビジョンをしっかり持っていきたいと思って。
『full fill』日本語で言うと「やりがい」。自分の中ではすごく大切です。
そういう思いも含め、この3つにしました。
ありがとうございました!
Profile
今矢 賢一 Kenichi Imaya
ニューサウス・ウェールズ大学卒。大学を卒業後、ネットベンチャー企業を立ち上げる。
マザーズ上場を機に、ブルータグプロジェクトを決意。2007 年4 月よりブルータグ株式会社代表取締役社長に就任。 マイナースポーツの活性化や振興に日々奮闘中。
http://www.bluetag.jp