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父と二人三脚、一進一退進んできた
史上最年少プロウィンドサーファーへの道。
プロウィンドサーファー杉 匠真
text / Rika Okubo
Jrユース選手権6年間制覇、自身14歳8ヵ月、 史上最年少プロ資格獲得。
匠真(たくま)という名の通り、切磋琢磨、海に挑む。
Episode1
逗子で生まれ育ち、自宅は海まで徒歩一分。父は若い頃からウィンドサーフィンのインストラクターを生業としていた。この環境下で、匠真がウィンドサーフィンにのめり込んでいくのに時間は必要なかった。
小さな頃から海でボードと戯れ、小学校1年生、6歳の時本格的にウィンドサーフィンをスタートした。
この年、初めて出場した大会の結果は最下位。大泣きしてやめると言ったものの、次に出場した大会では史上最年少優勝。
父いわく、一進一退を続けスタートラインに繰り返し立つようにここまで来たそうだ。
高いところも苦手、ジェットコースターも大嫌いという匠真が特段このスポーツに向いているとも正直思わなかったが、何か一つ、自信を持ってやってくれることがあればいい、それがウィンドサーフィンなら本望、親心にそう思っていた。
恐さを感じるからより丁寧に、誠実に向き合う。匠真がこれといって大きな怪我をしてこなかったのはそんな彼の性格にも起因していたかもしれない。徐々に徐々に安全にコントロールして高さを出していくプレースタイル。
そもそもウィンドサーフィンは、恐怖心を感じるポイントと実際の危険がイコールでないスポーツなのだという。
だからこそ小さな頃から父の元でそれらを身をもって体感してきたことも、匠真にとって財産となっている。
「父には本当に感謝しています。一からウィンドを教えてくれたこと、続けるためのお金の工面をしてくれたこと。父のサポートなしにはここまでこれなかった。」
Episode2
匠真は2009年にジュニアユース選手権初優勝、六年間続けて連覇という快挙を遂げ、現在は四つあるウィンドサーフィンの種目(※1)の中でも、技の応酬を採点によって競うウェイブパフォーマンス(※2)とフリースタイル(※3)の二種目に取り組んでいる。
仲間と切磋琢磨しながら、新しい技ができるようになった瞬間が何よりも楽しい瞬間、そう匠真は言う。
「ここにくるまでは、父の特訓がベースにあります。はじめはジャンプで一回転するのもすごく恐いんですけど、「やれー!」って。スパルタでした。お母さんがビデオに撮影してくれて、それを夜中までチェックして。
技ができなくて、心折れても辞めなかったのは、いつもどこかで練習すれば何とかなるという思いがあったから。
海というどうにもならないものを相手にしていると結局練習している人が強い。うまい人がうまい。風は、右とか左とかも関係なくて、世界一になるにはオールラウンドのコンディションが必要です。今は、風が吹いていれば毎日練習しています。朝学校に行く前に早朝、日の出前から準備して明るくなったら行く。とにかく行きたいし、とにかく楽しい。」
2016年、匠真はフリースタイルアマチュア年間ランキング1位でプロ資格を獲得し、2017年度よりJWAプロ登録選手となる。14才8か月中学3年生でのプロ登録は史上最年少記録となった。
「意識的にはすごく変わりました。周りからの目線もすごく変わった。中3でプロっていうと驚いてくれます。プロだからもっと上手くならなきゃっていうプレッシャーもあります。自分は才能があったわけでなく、諦めずに日々努力し続けてここまできたという気持ちがあるので。とにかく負けず嫌いですね。負けたら負けたでもっともっと練習しなきゃって。」
※1ウェイブパフォーマンス、フリースタイル、スラローム、アップウインド。
※2競技者が1対1で規定時間内にジャンプやライディングの演技を見せ、 ジャッジが判定する。十分な風と波の両方が必要。
※3競技方法はウエイブ競技と同じだが、波がなくても開催でき、よりトリックを中心に競う。
Episode3
現在、オリンピック種目のウィンドサーフィンRS-X級(※4)で三大会連続出場している選手が33歳になる。スピードを出すための身体の大きさや、道具を使うための経験値が重要になるため、30代はもちろん40代のトップ選手も存在する。ウェーブも波を読むことが重要となるため、匠真ら若手選手たちの実力がベテランの経験値に及ばないような側面があった。しかし、匠真は先日もプロの大会で2位に食い込む結果を出す。経験値をスピードでもって制するという戦いを繰り広げているのだ。
「結果を出すためにメンタルで負けないためにやっていることがあって、大会前気をつけることをノートに書き出すんですよ。書くと覚えるじゃないですか。それで意識を高めるようにしている。ウォーミングアップをしすぎない、とか。怪我をしないようにする、とか。それをいっぱい何度も書いて意識する。あとは大会中にやる技のシミュレーションも、ノートに書きます。
これやったらこの人に勝てるぞ、とか。自分の頭をまとめるためにノートに書いて、戦略を練るんです。戦略は自分1人で考えます。今日は調子が良いとか悪いとか考えながらぶれずに自分のやりたいことをできるので…。
フィジカル的には、怪我をしないために体幹や足の筋肉を意識してつけようと、今、「足圧ストレッチ」というものを取り入れたパーソナルトレーニングを受けています。トレーニングというトレーニングはそれくらい。海に入ることが一番のトレーニングだと思ってます。
ウィンドはセイルの調整具合がちょっとでも違うと調子が狂う。微調整をしていくんですが、ちょっとずつ変えて後はひたすら乗る。乗ってると、あ、調子よくなってるみたいなことになってたりします。調子悪くてもとにかく乗りまくって調整してます。」
※4ヨットレースと基本的には同じで、レース海面の風下から風上へ一斉にスタートし、ブイによってマーキングされた規定のコースを 走り、スピードを競う。
Episode4
取材中、父の純太郎さんがこう話していたのが印象的だった。
「もう、僕なんかがやってきたウィンドと匠真がやってきたウィンドは根本的に違うものになっているんじゃないかと思います。匠真のウィンドができるかっていったら…ねぇ。見ていて羨ましいですよ。僕らには見られない景色を見ているでしょうから。」
こうして時代が作られていく。逗子という土地で、日本におけるウィンドサーフィンの礎を築いてきた父が、息子にバトンを繋ぐ。匠真の目標はまだ先に続く。世界一を目指す。
新しい時代の幕明けはすぐそこにきている。 「今は、二回転に挑戦しています。二回転って本当に恐いんですよね。前回りだから、背中もすごく痛い。とにかくやるしかないんですけどね。ウィンドサーフィンは僕にとってかけがえのないものです。ウィンドサーフィンがあったからたくさんの人と知り合えたし、たくさんの良い経験ができた。」
風が吹き、今日も匠真は海に出る。
Profile
杉 匠真 Takuma Sugi幼少の時から海を遊び場とし、6歳で本格的にウィンドサーフィンを始める。小学生の時には大人と同じレース、コンテストに出場し優勝するなど数々の最年少記録を作る。中学1年でハワイマウイ島、中学2年ではスペイングランカナリア島でのワールドカップユースクラスに出場し準優勝するなど、それまでの日本人では考えられなかった活躍で世界でも注目を集める。2016年度フリースタイル競技でアマチュア年間ランキング1位となり14才8か月でJWAプロ資格を認定。プロ登録初年度でプロクラス2位に入るなど中学生とは思えない活躍する。2017年度ウェイブプロランキング2位。目標はPWA(Pro windsurfing Association)でのワールドチャンピオン。世界での活躍が期待される最年少プロウィンドサーファー。